GBIFネットワークのデータがICPP特別レポートにおける生物多様性の知見を補強する

データの増加により、気候変動の影響の世界規模の評価に31,000を超える昆虫種が追加された結果、1.5°Cの地球温暖化に関する2018年特別報告書が裏付けられました。

GBIF 経由で使用されたデータリソース : 種のオカレンス385,681,365件
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The rusty-patched bumble bee (Bombus affinis), considered critically endangered under the IUCN Red List. Photo 2017 Kevin White via iNaturalist Research-grade Observations, licensed under CC BY-NC 4.0.

この記事は 、GBIFサイエンスレビュー2019にも掲載されています。サイエンスレビューは、研究や政策の分野においてGBIF上のデータが利用された重要で注目に値する事例に焦点を当てています。

2018年10月、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「1.5℃の地球温暖化に関する特別報告書」 (SR15)を出版しました。2015年のパリ協定採択諸国からの要請に応え、報告書は「気候変動の脅威に対する世界的な対応、持続可能な開発、貧困を撲滅根絶するための取り組みを強化する」ことを目的としています。

IPCC SR15は、世界の平均温度が産業革命前に比べ1.5℃および2℃上昇すると、現在の世界と将来の世界で環境のリスクレベルがどのように変化するのかについて、政府に包括的かつ信頼しうる科学的助言を提供することを目指しています。また、意思決定者が直面するる選択とトレードオフを明確に記述することで、報告書は気候変動に関して責任ある政治的リーダーシップを発揮するために何が必要か、実践的なガイダンスも提供しています。

Implications of global warming for people, economies and ecosystems. IPCC SR15:政策決定者向け(SPM)要約の図より転載*

一次的な生物多様性データとSR15のような高次元の政策文書との関連性は、最善の状況であっても、見えにくい場合が大半です。包括的なグローバルアセスメントでは、数十万とは言わないまでも数十の科学研究論文を調査し、気候変動分析では、さらに科学的、技術的、社会経済的側面を詳しく調査しなければなりません。引用(データ引用はかなり少ない)は、大量の参考文献のほんの一部だけを参照しており、何らかの確実性をもって元になったデータを直接追跡するのはほぼ不可能です。

実際にほぼ不可能なのです。補足資料を通して目に見える形で引用の軌跡をたどろうとする果敢な研究者にとって、SR15の生物多様性関連の主要な結論を裏付ける研究とGBIFネットワークのデータの関連性は間違えようがありません。さらに、過去10年間でGBIF公開データの量の着実な増加はこうした政策関連の調査結果の極めて重要な部分を形づくっています。

2013年、イーストアングリア大学Tyndall Centre for Climate Change Researchの研究者であるRachel Warren と Jeff Price は、複数の著者で構成されるチームを率い、注目度の高い初期のGBIF上のデータ利用をNature Climate Change誌で発表しました。この 論文 では、普通種約50,000種の植物と動物の種のレコードを利用して、世界の気温上昇が普通種に与える影響についての理解が試みられました。その結果、種の地理的範囲が劇的に狭くなることが予測されましたが、気候変動の影響を緩和する迅速な行動によって、種の消失の規模を削減し、種が適応するための時間を稼げることが示されました。

2018年に話は進み、Warren とPriceは問いを若干改変し、新たな見方での出版を率いました。すなわち「世界気温の上昇を2℃ではなく1.5℃に制限すると昆虫、脊椎動物、植物への影響はどうなるか」という問いです。今回はScience誌に論文を投稿し、105,501種についての 3億8500万件を超えるオカレンスレコードを分析し、温度上昇を1.5℃に制限することで、2℃に比べ、気候変動による地理的範囲の消失が半分になることを示しました。補足資料には、この研究にとって、利用可能なGBIFネットワークによるデータの増加がいかに重要であったかが明記されています。

暗い色は、1.5°Cに対する2°C(上)および2°Cに対する3.2°C(下)の変化における、種の損失の減少、または「昆虫の種の豊富さの損失を回避するという観点から見た世界の年間平均気温上昇の利点」の予測を示します。 図3、Warrenらより借用 (2018).

「2012年の我々の先の分析以降、データベースは更新され、約70,000種の動植物を含むまでに拡張されました。…GBIFデータベースの更新と空間分解能の向上によって、先行研究より数千種も多くの種を含めることができました。」

実際、利用できるデータがこのように増加したことで、以前の分析では除外された動物のクラス、すなわち、31,536種の昆虫の導入が可能になりました。これらが欠如した先行分析には限界がありました。それは、(かつてE.O. Wilsonがそれらを特徴づけたように)「世界を動かす小さなもの」が生態系の機能とサービスを維持する極めて重要な役割を果たしているからだけでなく、著者らが「温度上昇を2℃ではなく1.5℃に制限することで昆虫が最も恩恵を受ける」ことを明らかにしたからです。

SR15は、GBIFネットワークによってサポートされた他の研究を少なくとも二次的に参考にしています。たとえば、 Urban ら(2015)によるメタ解析 でレビューされた131のモデル予測の多数はGBIF上のデータを用いたと報告されています。しかし、SR15は「種の範囲、豊富さ、絶滅率の変化」の分析が記載されているページ(218ページ)で、Warrenら(2018)を6回参照しています。たとえば、温暖化を0.5℃に制限するとで、(地理的範囲の半分以上の消失として定義される)絶滅に瀕する昆虫種の数を3倍減少させ、植物種と脊椎動物種のリスクを半減できるという結論が繰り返し引用されています。

GBIFネットワークを介してデータを共有している機関にとっては、IPCCのSR15は注目を集める行動の呼びかけ以上のものがあります。ユーザーのダウンロードにDOIを割り当たられていることにより、政策に関連する科学と基礎となるデータの直接的な関連を明らかにすることができます。そのため、なぜデータを共有するのかと問われた際、ダウンロードで引用された5,432データセットのGBIF出版者は、「気候変動が昆虫に与える影響についての初の世界規模評価やIPCC 1.5℃特別報告書のような重要な意味を持つ政策関連の科学に貢献するためだ」と明快に述べることができるのです。

Warren R, Price J, Graham E, Forstenhaeusler N and VanDerWal J (2018) The projected effect on insects, vertebrates, and plants of limiting global warming to 1.5°C rather than 2°C. Science. American Association for the Advancement of Science (AAAS) 360(6390): 791–795. Available at: https://doi.org/10.1126/science.aar3646.

* IPCC, 2018: Summary for Policymakers. In: Global Warming of 1.5°C. An IPCC Special Report on the impacts of global warming of 1.5°C above pre-industrial levels and related global greenhouse gas emission pathways, in the context of strengthening the global response to the threat of climate change, sustainable development, and efforts to eradicate poverty [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, H.-O. Pörtner, D. Roberts, J. Skea, P.R. Shukla, A. Pirani, W. Moufouma-Okia, C. Péan, R. Pidcock, S. Connors, J.B.R. Matthews, Y. Chen, X. Zhou, M.I. Gomis, E. Lonnoy, Maycock, M. Tignor, and T. Waterfield (eds.)]. World Meteorological Organization, Geneva, Switzerland, 32 pp. Available at: https://www.ipcc.ch/sr15/chapter/spm/b/spm2/