生物多様性科学を拠りどころに美術史情報を提供

研究者はDNAメタバーコーディングを使い、密輸された可能性のあるアンティーク大理石像の歴史を解明しました。

Three antique marble statues (Piñar et al. 2019)
Three antique marble statues of unknown origin analysed in the study. Photo from figure 1 in Piñar et al. 2019 (CC BY 4.0)

法医学においては、ごくわずかなDNAの痕跡であっても、生物学的マーカーとして使用し、特定の状況における人や物の存在を示すことができます。しかし、状況をまったく知ることができない場合には、種の分布に関する知識と結び合わせることでメタゲノミック・バーコーディングの進歩を有効活用できる可能性があります。

この研究では、オーストリアの研究者らが、DNA抽出のため、出所不明の大理石像3体をサンプリングしました。さらに採取したDNAを増幅して定量化と分類学上の割り当てのためのライブラリを構築しました。同定された分類群をGBIF上のオカレンスの分布と照合することで、著者らはこれらの彫像の起源の可能性についていくつかの結論を導き出すことができました。

2体の胴体の像は、おそらく畜産場の近くの農耕用土壌に保管されていたものと思われます。遺伝子パターンが類似していたことから、これらの胴体は近年、一緒に保管されていたと考えられます。両者とも東アジアに固有の分類群と一致する塩基配列を持っていました。しかし、3体目の頭部の像は、乾燥した状態や過去の海洋環境でより長く保管されていたことを示すマイクロバイオームが含まれ、大きく異なっていました。

最も関係のある発見は、1つの胴体にタイワンスギ属(Taiwania)のDNAが相対的に多く含まれていたことです。唯一の現存種が台湾中央部の山岳地帯と中国南西部の局所に生育していることから、この胴体はこれらの地域にあったか、これらの地域を通って運ばれてきた可能性があります。
Original article

Piñar G, Poyntner C, Tafer H and Sterflinger K (2019) A time travel story: metagenomic analyses decipher the unknown geographical shift and the storage history of possibly smuggled antique marble statues. Annals of Microbiology. Springer Science and Business Media LLC 69(10): 1001–1021. Available at: https://doi.org/10.1007/s13213-019-1446-3.